絆 〜孤独な仲間達〜 |
U−22に選出されての初試合…。 相手は、強豪フランス。 不安になる中、ある選手とある選手が話していた。 「こうやって再び出会えた…。それに感謝しないとな……。」 「そうだな…。俺らがもっているボロボロな用具から始まった縁だもんな…。」 「やれることをやろうじゃないか…。そうだろ?」 そう言いながら、選手は同じ守備ラインのスタメンに顔を向けた。 笑顔で言われた選手たちは返した。 キャプテンマークをつけた選手が、大きく息を吸いながら代表メンバー全員に言った。 「行くぞ!!!!!!!!!!フランスを倒すんだ!!!!!!!」 「おぉ!!!!」 U−22の代表がピッチに向けて歩いていく…。 その中で守備ラインのメンバーはお互いに肩を叩きながらゆっくりゆっくりピッチに向かっていった。 その日本代表のロッカールームに古びたボールとボロボロのサッカーシューズ、・キーパーグローブが一つずつ…。そして、同じチームの小さいTシャツが4枚…。 そう、U−22の守備ラインを素晴らしい実力で守り通してきた4人の選手の物語…。 天涯孤独でありながら不思議な絆で結ばれた者同志…。 周りからも絶大な信頼を得て守り通してきたU−22の日本の守備の要…。 GK石黒幸四郎…。 CDF高梨 昇…。 CDF紅池流星…。 CDF岬 健二…。 彼らが巻き起こした奇跡…。誰しもが無理と思った試合。負ける事も勝つことも忘れて…。 戦った………。 彼ら4人は親が知り合いだった事もあり幼少から知り合いだった。別々の少年サッカークラブに所属しお互い憎まれ口を言いながらも切磋琢磨した仲間だった。 しかし、そんな中神様は彼らに絶望を与える事になる。 追突事故…。同じ事故ではなかったがほぼ同時期に彼らの両親は事故に合う。 幼い少年たちに突きつけられた現実…。 そんな時でも、サッカーをしていた。その時、周りは分からなかった…。 「両親が死んだのに、泣かないなんて偉いわね。」 そんな他人の声が聞こえた。 そんなこと彼らには関係なかった。サッカーで彼らは悲しみを必死に忘れようとしていた。 サッカーをおいてしまったら彼らには何も残らない。 サッカーをおいてしまったら悲しみが彼らを襲う。 それを振り切るためにサッカーをしていた。 それぞれ必死に…。 それぞれの両親からプレゼントされたサッカー用具がボロボロになるまで…。 彼らはこの事故を期にバラバラになる。 ある少年は北海道の叔父の下へ。 またある少年は地元の孤児院へ。 別の少年は、アメリカの祖父の下へ。 しかし、運命というのはどこで繋がれるか分からないものだ…。 16歳になると、各地でうわさのサッカー選手となっていた。 ある者はGKの神様と謳われ、ある者は闘将と呼ばれ、ある者は孤独な天才DFと呼ばれ、ある者は努力の天才と…。 少年の頃の面影は無く、それぞれの人生を物語るように性格が変わっていた。 それでも彼らはお互いを感じていた。見えなくても…。 18歳になり、彼らにはJチームから沢山のオファーがあった。 しかし、彼らの気持ちは一つのチームに決まっていた。 幼い頃に彼らの両親からプレゼントされたあるチームのTシャツ。 4月…。 桜舞うこの地にある一つの弱小チームへ新人選手4人が入団した。 誰もが想像できない結果だった。なんせ、日本でも噂になるほどの選手が全て一つのチームへ入団したのだから。 新人選手の入団記者会見の席。 「それでは、我がチームに新たに入団しました。選手を紹介します。右からGKの石黒幸四郎選手。CDF高梨 昇選手。CDF紅池流星選手。CDF岬 健二選手です。」 それが別れ別れになって初めての顔合わせになった…。 しかし、彼らが元から知り合いなのはフロント側も誰も知らない事実。 顔を合わすと物凄い静かな雰囲気…。冷や汗が出るほどだった。 「彼らは、孤独を愛する者や物凄い自己中心的な選手が多いためチームに悪い影響が出るのではないだろうか?4人を獲得したのは間違いだったか」 と思っていた矢先…。 4人は一斉に抱き合った。 フロント側はしばし呆然としていた。そんなことにお構い無しで話を続けた。 他愛も無い話…。だけど、彼らは話し込んだ。 今まで会えなかった、連絡も取れなかった友人との会話をし続けた。 入団後のチーム合同練習。 フロント側の期待も大きく早速、スタメン組と練習を始めた。 フロント側の唯一の不安要素。 「守備ラインを彼らに任せたいが連携が取れるのだろうか?」 しかし、フロント側の不安要素は杞憂になった。 抜群の安定を見せるGK石黒選手。強いキャプテンシーで守備ラインを引っ張る紅池選手。それに感化されるように守備を高梨選手に岬選手。 これを見ていた監督の決断は早かった。スタメンに新人の4人を起用した。 プレシーズンマッチから彼らは守備に鍵を掛けた。 4戦して失点0 練習で見せたとおり抜群の安定を誇る守備ライン。 その活躍はJ1が始まっても変わらなかった。 相手FWを身体を張って止めるDF。空中戦でも競り負ける事の無いDF。ピンチの時にでも的確な判断で最終ラインを守るGK。 J1 1STステージが終了した時点で失点2。連続無失点記録は10試合と圧倒的だった。チームの去年とは違い3位で終えた。 ある日のU−22の代表メンバー召集ニュース。 もちろん、クラブハウスで談話をしている石黒・高梨・岬・紅池選手も見ていた。 続々と代表メンバーが呼ばれる…。 最後になった。 「GK石黒選手とCDF高梨・岬・紅池選手以上の選手を代表メンバーとして招集します。」 思いもかけない事だった。 記者の間にも動揺が起こった。 「なぜ、このメンバーにしたんですか?今年の新人選手も4名ほど入っていますが…。」 「私は強いチームにしたい。だから年齢や新人などは気にしない。」 そうきっぱり断言した。 その召集ニュースから次の日には日本代表合宿に参加していた。 「来てもらってそうそうで悪いが、1週間後にU−22のフランス代表と練習試合を組んでいる。そこで結果を出してもらう。」 召集された選手の間にもどよめきが起こった。 その中でもいつもの4人は平然としていた。 「早速、無茶を言い出したな…。」 そう言っている、石黒の顔は笑顔だった。 「まぁ…俺らがやることなんて決まっているさ。」 岬は武者震いをしていた。 「そういうこと。俺らがやる事は一つ…。得点させない事。」 紅池は残りの3人を見ながらそう言った。 早速練習が始まった…。 いつもの如くキレのある守備を見せる4人。 もはや、代表メンバーで彼らのゴールをこじ開ける選手は誰一人居なかった。 1週間なんて早いもの。 今日の練習も終わり明日はいよいよ試合って時に、紅池は夜の練習場へ岬や高梨・石黒を誘った。 「いよいよ明日、試合だな…。」 ただ黙って言葉に耳を傾ける3選手。 笑いながら言葉を続けた。 「これも何かの縁なのかな…。ただ親が知り合いだった…。それでも良いさ。……こうやってサッカーをしていたからこそもう一度会うことが出来たんだから…。………実は明日のフランス戦凄く不安だ。日本じゃチヤホヤされているけど海外でうちらは通用するのか?」 3選手は初めてこんな表情をする紅池選手を見た。 普段は強烈なキャプテンシーで守備ラインを引っ張っていた選手がこんなことをぼやいたから。 「そんなこと分からないさ…。でも…俺らは強い!仲間がいる。負けても良いじゃないか。負けたら強くなればいい。だろ?」 岬選手がそう言った。 高梨が続けた…。 「それに俺らがやる事は決まっている……。どんな時でも、どんな場所でも…。たった一つ。それが強豪フランスでも変わらんよ…。」 夜空を見ながら4選手は声を揃えた。 「失点をさせないこと!」 夜空に誓おう。俺らだけの誓い…。やる事がある…。やらなきゃいけないこと…。 俺らは強い……。だから勝てるさ…。 |