絆−想いは永遠に− |
「ワァァァァァ!!!!!!!」 「日本!日本!」 「負けるなよ〜〜〜〜。」 思い思いの応援が15万人のスタジアムを埋め尽くす。 日本応援旗が上下に動き、今か今かと選手の入場を待っている。 日本対フランス 勝つ見込みがゼロといわれている試合。そんな中でも、サポーターの視線は一つだった。 フランスのジダンでもない。 日本の最終ラインを支えるこの4選手だ。 実況席でも。 「我々、日本が勝つためには彼らの力が必要です。そう、まさに日本の守備に鍵をかけるDF陣の紹介です!!!!!」 スタジアムの電光掲示板にも…。 大きく、DF陣の選手紹介が始まるとサポーターは歓声を上げた。 そう、サポーターにとっては彼らが頼みの綱なのだ。 ピッチへ歩く選手達…。 「おい、聞こえたか?過大評価されているみたいだな。」 一人の選手が言った。 「そうだな…。俺らだって人の子だって言うのに…。」 別の選手が苦笑していた。 「もう話すな……。」 また別の選手が手短にそう言った。 「ほら、ピッチだぞ。」 キャプテンマークをつけた選手が言う……。 いつになく、明るいスタジアムに手を翳す選手達。 それと同時に大歓声とアナウンサーの声が聞こえる。 「いま、勇壮なる日本代表の戦士達がピッチに現れました!!!!!!」 ピッチ上ですぐにアップを始める日本代表とフランス代表。 最終ラインも必要なアップを始めた。 アップも終了していよいよ試合が始まる。 キャプテンマークをつけたDFの紅池流星選手。 フランスのキャプテンは、世界最高の選手と謳われるMFジダン選手。威厳にも溢れている…。 『やっぱり、世界最高のMF。プレッシャーで冷や汗が出そうだ。でも、彼に負けるようじゃ最終ラインを守れないんでね。』 苦笑しながら相手を真っ直ぐ見つめた。 ジダン選手も同じだった。 『彼はやる選手だ…。日本にこんな選手が居たのか?これは、思い通りの試合を簡単にはさせて貰えなさそうだ。』 彼の笑っている姿が強烈な印象になった。 そう…この試合を楽しみにしているような…。何かを確かめるような目だったから。 紅池とジダンは握手をした。 これが後に「日本の奇跡」と呼ばれる試合だ。 試合が始まる直前、紅池はスタメンを全員呼び出して円陣を組んだ。 「今日の試合は、おれらが召集されて初めての試合だ。世界のやつらは俺らが負けると思っている。まぁ…その通りになるかも知れないけど。」 紅池の冗談に小さな笑いが起こった。 まじめな顔に戻った紅池は一言。 「やれることをやる!勝てば世界に日本の強さを示すことができる。さぁ!悪夢を見せてやるぞ!」 「おう!!!!!!!!!!!!!!!!」 一方、フランスは…。 「今回のU−22日本代表は危ない。」 ジダンは、敢えてストレートにそう言った。 「危ない?怪我するってことか?」 アンリ選手が聞き返した。 「そうじゃない。今までのU−22日本代表と雰囲気が違いすぎる。特にあの最終ライン…。そう簡単に得点は貰えそうに無いぞ。」 ジダンはスタメンを見ながらそう言った。彼の真剣な眼差しが物語っていた。 「分かった…。油断する訳にはいかないか。」 アンリ選手はそう言ってポジションについた。 「いま言っての通りだ、今までみたいに好き勝手させて貰えない。気を抜くな。」 ジダンは再度、チームのみんなに警告した。 ピィィィィーーーーーー!!!!!!!!!!!! 高らかに主審の笛が鳴って試合が始まる。 そして、すぐにジダンの警告が本物となる。 前線からの高いプレス。今までの日本代表以上に高い位置からのプレスにフランス代表は意表を突かれてしまった。 しかし、そこは世界でもトップクラスのフランス。 一度は日本に傾きかけていた流れも一瞬でフランスに流れを持っていかれた。 それでも、日本の執拗なプレスは続く。 そこでジダンはショートパスによる繋ぎに変更しようとしていた。 キャプテンマークを付けている紅池は笑った…。 そう、彼にとってはそこまで計算されていたのだ…。 彼は試合開始前にロッカールームで作戦をスタメンに伝えていた。 「良いか?俺らには決定機が数少ない。フランスは俺らよりも実力で勝っている、だからこそ少ない決定機を逃さずにゴールを上げなくてはいけない。」 「それは分かった。だが、どうするんだ?決定機を無理やりでも作る気なのか?」 岬や石黒・高梨は既に何かを掴んでいた。 「あぁ、開始してすぐに前線から中盤にまでかけて一心不乱にプレスをかけてもらう。」 淡々と言葉を繋いでいく紅池。 「そうすれば、意表を突かれた形で俺らに流れが傾くだろう。だが、フランスはそこは譲らない。プレスを掛け続ければ、必ずパスで繋いでくるはずだ。そこを奪って一気に駆け上がる。そして、その役目をするのは俺ら最終の役目だ。」 スタメンがざわついた…。それもそうだ、この作戦は一度失敗すればGK一人で失点を防がなくてはいけない。 「落ち着け。何もこれを何回もする気は無い。最初の一回だけだ、二回目は無い。そこまでのへまをするような相手じゃない。時間的にも最初の10分間しかチャンスは無い。」 『俺らに任せてくれ………頼む…………。』 フランス代表が中盤を攻めあぐねている所を狙って一人のDFが駆け上がる。 そしてその狙いに気付いたのもフランスのキャプテンジダンだった。 「もっ!戻れ!!!!!!!!!!!!これは罠だ!!!!!!!」 そう言っても既に遅い。 強烈なスライディングからボールを奪取した紅池選手。そのまま、前線へフィード。 それを受け取った藤田選手。スルーパスを出す。 そのまま、日本代表のFW河本鬼茂選手へ。 虚を突かれたフランス代表の最終ライン。急いで体制を整えるが、3人対6人。 圧倒的な人数さ…。 そして、日本でも傑出した能力を持っている河本選手の高いフィジカルに次々となぎ倒されていくフランス代表DF。 そして、放たれたシュートはゴールマウスに突き刺さる。 一瞬の出来事だった。 試合開始10分だった、これも紅池の言っていた時間内ピッタリ…。 完全に虚を突かれたとしてあのフランスが簡単に失点を許したのだ…日本・世界中のサッカーファンが驚きに包まれただろう。 一切の歓声も聞こえない、静まり返るスタジアム。 実況すら聞こえない。 ワァ……。 ワァァァァァァァァァァァァーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 「見たでしょうか?試合開始10分、あっという間の日本代表のゴールです。驚きの余り実況も忘れてしまうほどです!!!!!ご覧下さい、フランス代表はまだ何があったのか分かっていないようです。」 彼方此方で歓声が聞こえる。 日本!!!!!!日本!!!!!!日本!!!!!!日本!!!!!! 紅池や岬・高梨・石黒に向かって走り出すスタメン。 しかし、紅池は喜ばずに。 「まだだ、試合は始まったばっかりだ。勝ってから騒ごうか……。」 「そうだな…。さぁ、再開するぞ。」 フランス代表は、あまりの事に無言になっていた。 そこにジダンが歩み寄った。 「すまない、俺の完全なミスだ。」 「いや、お前の言っていた事が良く分かったよ…。日本代表は今までとは違う。圧倒的な能力・それと最終ラインへの絶対的な信頼…。危険すぎるな……。」 アンリは、中央に向かいながら続けた。 「負けないさ、俺が点を取ってやる。」 リスタート。 フランス代表は失点してから目つきが変わった。 正に獲物を駆るような目つき…。 始まると洗礼された技術に華麗なパス運び。 しかし、それも日本代表の最終ラインの前では霞んでしまう…。 アンリの目が覚めるようなシュートも石黒の前では赤子の手をひねるように止めてしまい、ジダンの絶妙なスルーパスも紅池にとってはさも来る事を予め知っているようなカット。 フランス代表は自分たちの試合をさせてもらえない。 苦悶の表情を浮かべるフランス代表…。 攻めても攻めても必ず最終ラインで止められてしまう。 目の覚めるようなシュートやクロス・絶妙なパス、決定的なチャンス。 ことごとく止められてしまう。 分からない、だが止められる。 しかし、日本代表にもついにピンチがやってくる。 前半34分、高梨のプレッシングがファールとされてFKのチャンスを与えてしまう。 キッカーはもちろんジダン。 GKの石黒は声を張って指示を出した。 そして、石黒は一つの決断をしていた。 『必ず、直接を狙ってくる。距離にして約27〜8m、直接にはあまりにも良い条件が揃っている。それに今まで点を取らせて貰えない所から見ても絶対に流れを無理やりでも引き戻しにやってくる。コースはぁ……カーブを掛けての右上隅だ。』 日本代表サポーターが必死に祈る。 そしてボールを蹴る、ジダン選手。 「とっ!止めたーーーーーー!!!!!!!!!GK石黒選手、両手でがっちりとボールをキープしています。」 実況のアナウンスがそう告げる。 そう、石黒の決断通りジダン選手は無理やりでも流れを引き戻すべく直接を狙ってきた。 しかもコースまで完全石黒の予想と同じだった。 カーブを掛けながらゴールマウスの右上隅を突いていた。 しかし、それでもフランス代表は形振り構わず流れを引き戻しにかかる。 どんなに信頼のある最終ラインとはいえ、これだけの人数でフランス代表の猛攻を耐えるにも限界がある。 それでも、類稀な集中力を見せ耐え忍ぶ最終ライン。 前半が終了して1−0。 フランスが1点のビハインドで前半を廻る事になる。 ハーフタイムのロッカールーム。 1点を取った日本代表と1点を失ったフランス代表。 ロッカールームでの雰囲気は正反対だ。 1点をフランスから取り意気揚々となっているスタメンに対して。 「まだだ!まだ勝ってはいない。勝ってからにしよう。」 そう言い聞かせたのは監督でもコーチでもない。 キャプテンマークを付けている紅池選手。 それを聞いて再び集中を取り戻すメンバー。 フランス代表のロッカールームには怒号が響き渡る。 「なんだぁ!この惨めなプレイは!!!!!!」 物凄い形相で怒りを露にする監督。 それを静かに聞いているスタメン。そこでジダンが一言。 「確かに1点取られたのは不覚ですが、今までとは比べ物にならないぐらいの戦略家が居るんです。それにやられました。しかし、そこで終わる俺たちじゃない。必ず勝ちますよ。」 そう語るジダンの目には輝きがあった。 後半開始前に再び円陣を組んで気合を入れる日本代表。 後半に入って日本代表はカウンターを主戦術として挑んだ。 これもあくまで選手たちの考えだ。 後半戦開始。 開始直後に一気にラインを下げる日本代表。 まさに亀のように小さくまとまりながらも前線からのプレスを忘れない。 攻められてもハーフタイムである程度体力の回復している最終ラインに阻まれるフランス代表。 緊迫した試合になる最中に試合が動く。 後半27分 MFのジダン選手は選手の動きが鈍くなりつつあるのを見つけた。 そこで博打を仕掛ける事にした。 敢えて最終ラインをハーフラインまで上げるという超攻撃的な作戦を考えた。 しかしこれは時間的にもギリギリの時間。 後半45分に掛けるべきと考えた。 時間的にもこの時間は意識が低下する事を知っていたから。 そこをつけば、確実に点を取られる事を知っているから。 特に日本代表のようなタイプには有効だと判断した。 後半45分 ついにその策が実行に移された。 一気にラインを押し上げ攻め立てた。この作戦はフランス代表に好機を演出させた。 決定的なチャンスの到来。 確実に決まる。 と誰もが予想していた。 しかし、思わぬ伏兵と入るものだ。 その決定的なチャンスを潰したのはFWの河本鬼茂選手だった。 彼の圧倒的なフィジカルを持って決定的なチャンスを潰した。 『さてと……多分、後半に失点するな。』 何の脈絡もなくGKの石黒がそう言った。 『分かっていたのか…。』 岬や高梨が言った。 『そこまで鈍感じゃない。ロッカールームまでの退出の時に足がふらついていたろ?もう、既に足は動かないんじゃないのか?』 『あぁ、その通り。だけど、俺らじゃないとフランス代表は止まらない。』 『もう一人居るんじゃないのか?お前らに勝るとも劣らない強力な奴が。』 そう言いながらFWの河本選手に視線をずらした。 『あぁ〜〜〜居たな。』 『えぇ!!!!!!!!俺ですか?』 『大丈夫、やる事なんて一つだから。』 『アンリを止めて。後は俺らがやるからよぉ。フランスの決定的なチャンスに必ずといってもいいぐらい絡む選手だから。その決定的なチャンスを潰すだけ。』 『でも、その決定的なチャンスっていつあるか分からないですよ。』 『大丈夫、予想既についてるから。』 『えぇ?』 『後半40〜45分の間。このときに必ず決定的チャンスがあるからそれを潰すだけだよ。』 この決定的なチャンスを潰されたフランスに抵抗する力は無い……。。 試合終了。 終始、日本代表の最終ラインに阻まれた結果だった……。 「それでは、最後にフランス代表のジダン選手にインタビューしたいと思います。」 アナウンサーがマイクを持ってジダンの方へ行くと、ジダン選手は手でマイクを遮った。 それほどまでの完璧な敗北だった……。 フランス代表を下した喜びに沸く日本代表が乗っているマイクロバスの車中でその勝利に大きく貢献した最終ラインは静かに腕を合わせていた…。 |