与える夢与えられる夢


ゴ〜ル!!・・ 本日のMVPは、鬼茂選手です。

おめでとうござい・・
ありがとうござい・・

キャーキャー

ケッ いい気になってんじゃねーよ。若造がいい気になりやがって、ハットトリックでスター気取りか?わい、もうボランチとか飽きたで・・トップ行かせろや・・

今日もせっせとボールを蹴る。闇雲に、力任せに。一心不乱にボールを蹴る。時に力強く、ボール・・ 割れろや・・
わいの割れる魔球で度肝抜いたるで・・。正直いい気になってました、後の彼はそう語る。しかしその時の彼は、長年デスのエースとして。大阪の顔として光続けてきた彼には今の扱いは耐えられなかった。
その足はもっぱら凶器、ロッカールームで横たわる柱谷。口元にはうっすらと血がにじむ。
「勘弁してください片桐さん・・」
ボールの後はやっぱ人間の腹やな、しかもお前みたいなどーでもええ奴やってん誰にも怒られへんしな。
かつての名選手としての輝きはそこには無く、ボールも人も。目に映る全ては、彼にとって忌々しく。
腐り続けてはや6年、点の取り合い取らせあい。時代はストラーカーを求める様になり・・一人また一人とサポーターにも芸術的なフリーキックを口にするものはいなくなっていった。ボランチだろうがピモーテだろうが、誰も興味はなかった。それが片桐にはたまらなくつまらなかった。
大阪デスのトップストライカーキングカズに憧れ、日々サッカーの夢を見て。プロになりたいと思っていた毎日。
来る日も来る日も練習して、やっと掴んだプロへの切符。
スカウトが来た日の喜びも、あのカズと同じピッチに立てる
感動も。つかみ取ったレギュラーの座、ポジションはボランチ。「目立てへんやんけー」 それでも彼は来る日も来る日も練習し、芸術を生み出すコトに成功した。その完成度はまさに世界屈指であったと言えよう。

・・・夢を見た。

「この足で世界取ったるでー」

しかし世界を取ったのはその足では無く、キングカズ引退後の天才の華麗な足であった。

「ムカツクンじゃ鬼茂ー」 ボコッ ボコッガスッ
「痛いッスよ片桐さん・・ ・・・・・・・。」

-アクシデント-
AC「柱谷の怪我は重傷で全治半年のあばら骨骨折です、原因は不明ですが・・ 本人言わないので・・」

「ったくやわな奴っちゃで」
特に悪びれるわけでもなく次の獲物を探すコトにした。


「片桐さーん」
ぁあ?誰やうざいのぉ。立っていたのは鬼茂、なんやこいつ話かけてきよったで。 
「フリーキック教えてください。」
なんやこいつ、スターの座だけやのぉてフリーキックまでわいから奪う気なんかい?
「新外国人が来てFW奪われそうなんです。それで昔FWからボランチへコンバートし奇跡の復活を遂げた片桐さんの話が聞きたくて・・」

は?

「僕、片桐さんに憧れてFW始めたんですよ」
屈託の無い笑顔・・・、目から鱗が落ちた気分だった。わいが一番嫌っとったやつが・・ 一番のわいのファンやったなんて・・ こんなわいでも夢・・ 与えれてたんやな・・
「よっしゃまかせぇ」

数日後
「代表、俺もそろそろ潮時かなって。これからは若いやつの時代。引退後もコーチとして残ってええか? 子供らに夢与えてるやつらの手助けしたいんや、第二第三のキングを育てたい」

    →はい        いいえ     ぴこっ

「ほなよろしゅうっ 」
新しい伝説の幕開けだった。名監督の船出としてはちょっぴり鉄の匂いが気になった。
「すまんことしたな・・ 柱谷・・・」